「肩が痛い」と聞いて、使えそうな手技が思い浮かぶことがあります。施術を学び始めたころなら、症状と方法を結びつけた一覧が手がかりになることもあるでしょう。

ただ、同じ「肩が痛い」でも、どんな動きで気になるのか、動き始めに不安があるのか、どこに力が入るのかは、一人ひとり違います。腰の重さについても同じです。方法を決める前に、今の状態を本人と確かめておきたいところです。

症状名や診断名は、医療上の判断や他職種との連携で必要な情報です。それに加えて、施術中には本人の言葉や動き、触れたときの反応を確かめます。ここでは、触れる前に何を見て、施術のあとにどう比べるかを考えます。

本人が気にしている動作を聞く

最初に「どこが痛いですか」と聞いたら、場所だけで終わらず、どんなときに気になるかも聞きます。

「今はどんなふうに感じますか」

「どんな動きをすると気になりますか」

その話から、安全に比べられる動作を一つ選びます。腕を上げる、首を小さく向ける、立ち上がる、数歩歩くなど、本人の状態と目的に合うものにします。つらい動作を無理に最後まで行ってもらう必要はありません。

動いたときは、動く範囲と一緒に、動き始めの様子も見ます。ためらいがあるか、呼吸が変わるか、どこに力が入るか。本人がどこをどう感じているかも聞きます。施術の前にこの様子を確かめておくと、あとで比べる対象がはっきりします。

この時点で「この場所が関係しているかもしれない」と考えたら、それを次に何を試すかの手がかりにします。触れたあとの反応によって、考えを変えられるようにしておきます。

明るいグレーの机に置いた白いリングノートとペン
本人が話したことと、観察して分かったことを分けて残す。写真は記録のイメージです。
Photo: Diana Polekhina / Unsplash

触れたあとに、同じ動作へ戻る

触れる場所や方法、確かめたいことを伝え、同意を得てから始めます。圧や方向、時間は、本人の反応を見ながら調整します。呼吸や表情が変わったり、身体を遠ざける動きがあったりしたら、いったん手を止めて確認します。

一つ働きかけたら、手を離して、本人がどう感じたかを聞きます。

「先ほどと比べて、何か違いはありますか」

「楽になりましたよね」と聞くより、本人が感じたことを話しやすい聞き方です。「変わらない」「よく分からない」「別の場所が気になる」という返事も、そのまま受け取ります。

続いて、最初に選んだ動作を、できるだけ同じ条件でもう一度行ってもらいます。腕を上げたのなら、もう一度腕を上げる。立ち上がったのなら、同じように立ち上がる。動く範囲だけでなく、動き始めや呼吸、力み、本人の感覚も比べます。

施術者の手には変化が感じられても、本人の動作や感覚は変わらないかもしれません。反対に、動く範囲はあまり変わっていなくても、本人は前より不安なく動けるかもしれません。どちらも記録しておくと、何が変わったのかを整理できます。

施術者が座った人の前腕を開いた手で軽く支え、二人でその反応を確かめている様子

変化がなければ、どこを見直すか考える

期待した変化が出なかったときは、同じ手技を強く、長く続ける前に、触れた場所や圧、方向を振り返ります。最初に選んだ確認動作では、違いが分かりにくかった可能性もあります。立てた仮説そのものを考え直すことも必要です。

変化があった場合は、今回行ったことと、そのあとに確かめた反応を残します。「この症状にはこの手技が効く」とまとめてしまうと、その人の状態や施術の条件が抜け落ちます。次回も同じ反応があるか、日常の動きにも変化があるかは、あらためて確かめます。

施術者が触れて感じたこと、本人が話したこと、動作を見て分かったこと。この三つが一致していれば、次もその仮説を手がかりにできます。一致しなければ、どこが違っていたのかを残します。本人の言葉を自分の説明に合わせず、観察したことと並べて考えると、次に確かめたいことが見えてきます。

「手で感じたこと」「本人の言葉」「動きで見えたこと」を、それぞれノート、吹き出し、拡大鏡付きの記録用紙で分けて示した図。
触れて感じたこと、本人の言葉、見えた動きを並べて振り返ります。

反応を確かめる前に、安全を判断する

急な強い痛み、外傷、しびれや力の入りにくさ、発熱や体調の急変があるときには、施術を続けてよいかの判断が必要です。触れたときの反応だけで進めず、各自の資格と職域に沿った評価や、医療機関への相談を優先します。

また、触れる場所や方法を変えるときは、そのつど目的を伝えます。本人が断ったり、途中で止めたりできることも、施術を進めるうえでの前提です。

施術の記録を見返すときは、使った手技の名前に加えて、何を見てその方法を選び、どの反応を受けて判断を変えたかをたどってみます。触れる前に比べる動作を決めておけば、その日の施術を振り返る手がかりも具体的になります。