「軽くなりましたよね」

「はい」

このやりとりだけでは、相手がどんな変化を感じたのかは分かりません。「軽くなった」という言葉がぴったりだったのか、ほかに気になることがあったのか。聞き方を少し変えてみます。

「さっきと比べて、何か違いはありますか」

これなら、「変わらない」「むしろ動きにくい」「まだ分からない」とも答えられます。施術者がよい変化だと思っていても、本人の感じ方は違うことがあります。施術や運動指導では、こちらの観察を伝える前に、まず相手がどう感じたかを聞くようにします。

動く前の感覚を確かめる

触れたり動いてもらったりする前に、今の身体をどう感じているか聞いておきます。あとで比べるときにも、最初の感覚が手がかりになります。

「どこが悪いですか」と聞くだけでは、痛い場所や問題のあるところに話が偏りがちです。今、本人が確かめられることを具体的に尋ねます。

「立っているとき、左右で違いはありますか」

「動き始めと終わりでは、気になる感じは違いますか」

すぐに答えが出なくても、そのまま少し待ちます。「分からない」という答えも、今の状態を知るための情報です。こちらの説明を足す前に、本人が確かめる時間を取ります。

変化の有無を決めずに聞く

「軽くなりましたよね」には、軽くなったはずだという期待が含まれています。「右のほうが動きやすいでしょう」と聞けば、相手も右の動きやすさに注意を向けるかもしれません。

変化を確かめたいときは、「先ほどと比べて、何か違いはありますか」と聞きます。左右を比べたいなら、「左右で同じところと違うところはありますか」と尋ねます。何を比べるのかは伝えながら、どんな答えになるかは決めずに聞きます。

質問をしたあとは、答えを待ちます。返事がないからといって、次々に聞き方を変える必要はありません。触れている間に話しかけられると、答えることに集中して、身体の反応を感じにくくなる人もいます。その場合は、いったん話すのをやめ、終わってから聞いてみます。

白い机に開いた無地のノートと黒いペン
答えを決めずに尋ね、相手の言葉を待つ。写真は記録のイメージです。
Photo: Tirachard Kumtanom / Pexels

本人の言葉を使って詳しく聞く

「ふわっとする」「足が床についた感じ」「まだ怖い」。相手がそう話したら、すぐに専門用語に置き換えず、その言葉でもう少し詳しく聞いてみます。

「足が床についた感じは、立った瞬間ですか。それとも動いた後ですか」

「怖さがあるのは、動き始めですか。動きの終わりですか」

同じ「軽くなった」でも、動き出すときに力がいらなくなったのか、動いている途中の感じが変わったのかで、確かめることは変わります。どの動作の、どの場面でそう感じたのか。本人の表現を手がかりに、具体的な場面を一緒に確認します。

椅子に座った人が片腕を上げて戻す動きを、動き始め、途中、戻すときの3場面で示したイラスト。途中の場面に「途中から重い」という本人の言葉がある。
「途中から重い」なら、動き始め・途中・戻すときの、どこで感じたのかを聞きます。

見えたことと見立てを分けて伝える

施術者から見えたことも、本人の感覚とあわせて確かめるための情報です。伝えるときは、観察したこと、そこから考えたこと、次に試したいことを分けます。

「腕を上げたとき、右はここで止まりました」

「胸まわりが関係しているかもしれません」

「ここに触れたあと、もう一度比べてもいいですか」

こう伝えれば、どこまでが実際に見えたことで、どこからが見立てなのかが分かります。「ここが原因です」と先に決めず、触れたあとの反応や、もう一度動いたときの感じから確かめていきます。

触れる場所や動きを変える前には、何を確かめたいのかを短く説明します。そのうえで相手の意向を聞き、別の方法を選ぶことや、中止することもできるようにします。

危険が疑われる状態や、専門的な評価・受診が必要な場面では、その判断と理由をはっきり伝えます。施術や運動で扱える範囲を説明し、必要に応じて中止して、専門家への相談を優先します。

メモと虫眼鏡、ノートと鉛筆、吹き出しを添えた3段の図。見えたことは「腕はここで止まりました」、考えたことは「胸まわりが関係するかもしれません」、次に試すことは「もう一度比べてもいいですか」。
見えたこと、そこから考えたこと、次に試したいことを分けて伝えます。

返ってきた答えから次にすることを考える

変化が見えたときも、本人の感じ方を聞きます。「最初と比べて、ご自身ではどう感じますか」と尋ね、動く範囲、力み、安心して動けるかなど、何が変わったのかを確かめます。

こちらからは動く範囲が広がったように見えても、本人には怖さが残っているかもしれません。その場合は、怖さがどの場面で出るのかを聞きます。見えた変化と本人が感じたことの両方を、次にどう進めるかを考える材料にします。

「変化はよく分からない」と言われたときも、その答えをもとに考えます。触れる場所や圧、動き、確認の仕方を変える必要があるか。最初の見立てを見直し、何をもう一度確かめるかを相談します。

記録には、施術者の観察と一緒に、本人が使った言葉も残します。「軽くなった」なら、どの動作のどの場面でそう感じたのかまで書いておきます。次回は何を比べるのかも残しておけば、前回の反応を踏まえて話を始められます。